社会とつながり、世界に羽ばたく人材育成を——プログラミングスクール「Dot.labo」の挑戦

2023.07.14

今と未来のインターネット

インタビューにご協力いただいた方

ロボット&プログラミングスクール Dot.labo代表

太田 康秀

ABOUT

  • ロボット&プログラミングスクール Dot.labo:

    https://dot-labo.jp/
  • スクール設立:2016年10月
  • 趣味:バドミントン
  • 好きな言葉:常に感謝

INTRODUCTION

仕事から日常生活まで、あらゆるシーンで欠かせない存在となっているインターネット。インタビューシリーズ「今と未来のインターネット」では、インターネットにさまざまな形で関わる企業や自治体、学校関係等に話を聞き、活動や思いを通して、読者に多様な視点や新たな知見をお届けします。初回となる今回登場するのは、名古屋市や長久手市でロボット・プログラミングスクールを運営している「Dot.labo」代表の太田康秀氏。国際的なロボットコンテストで世界4位を獲得した特徴ある指導方法、プログラミング教育を通して目指す未来の形について、話を聞きました。(本文中:敬称略)

川上城三郎(株式会社Cadenza代表取締役社長、聞き手)

Cadenza代表川上城三郎とDot.labo代表太田氏
画像:左・弊社代表川上城三郎、右・Dot.labo代表太田康秀氏

あえて取り入れた「二人一組」の狙いとは

川上

まず最初に、スクールの概要について教えてください。

太田

当スクールは、小学校入学前から高校生まで学ぶことができる、プログラミング・ロボット教室です。現在名古屋市と長久手市を中心に4校運営していて、ロボットを動かすコースやPythonでプログラミングを学ぶコースなどがあります。

ロボットを動かすコースは「ロボ団」というフランチャイズグループの一員として活動していて、使っているのはそちらのカリキュラムです。ビギナー、チャレンジャーベーシック、クリエーターアドバンスの3つのクラスに分かれ、ビジュアルプログラミングを通じて子どもたちがロボットを動かしながらプログラミングを学んでいます。
   
ロボ団のクリエーターアドバンスを修了終了すると、次の段階として、Pythonを学べるコースやSTEAMというチームを組んで好きな課題に取り組むコース、ロボ団で得た知識をさらに突き詰めてロボットの世界大会を目指すロボ部というコースに分かれます。

川上

カリキュラムには、どのような特徴があるのでしょうか?

太田

ロボ団のコースでは、二人一組で学ぶ、という特徴があります。ロボットを使ったプログラミングスクールはたくさんありますが、このやり方は珍しいのではないでしょうか。

プログラミングというと、一人でパソコンに向かい没頭して作業する、というイメージがあるかもしれませんが、このカリキュラムでは、パソコンもロボットも二人で1つしか与えられないんです。ロボットに新しい動きを入れるにしても、自分一人ですすめることはできず、相手に説明をして了解を得ないとできません。意見が食い違ったりケンカになったりすることもあります。

川上

一人で作業した方が早く進むように思うのですが、なぜわざわざ二人一組というシステムにしているのでしょうか?

太田

ロボ団では、「好きを学びに、社会とつながる」というコンセプトを掲げています。

どれだけ高度なプログラミングスキルを身に着けたとしても、周囲の人とコミュニケーションをとることができなければ、実際の社会でそのスキルを役立てることはできません。何かを作るためには、周りの人と協力し、時には議論したり相手の意見を取り入れたりすることが必要です。

このカリキュラムでは、プログラミングを学ぶだけではなく、身に着けたそのスキルを通じて実際に社会とつながることを目指しているんです。そのために、プログラミングを最初に学ぶロボ団のコースでは、あえて二人一組というシステムを取り入れています。

川上

なるほど。プログラミングのスキルだけではなく、周囲の人とのコミュニケーション力、協力して何かを作り上げる力も身につけることができるんですね。
ロボ団終了後のコースについても、概要を教えていただけますか。

太田

ロボ団のコース終了後は、先ほどお伝えしたようにPythonクラス、STEAMクラス、ロボ部というコースがあるのですが、どれか一つのクラスだけではなく、複数クラスに参加することも可能です。また、Pythonのクラスは、さらにスタンダードとエクスパートの二つに分かれています。

ロボットを使ったビジュアルプログラミングを一通り終えたあと、自分の好きな分野をより学べるコースがあるのも、うちのスクールの特徴だと思います。

面白いことに、同じ授業を受けていても、ロボットは飽きたけれどプログラミングをもっとやりたいという子もいれば、ロボットを極めて世界に挑戦したい、という子もいるんです。

Dot.labo代表太田氏

国際的なロボコン「WRO」で世界4位に

川上

自分の好きなものに特化して学び続けることができるんですね。STEAMクラスやロボ団では、具体的に、どのような活動をしているのですか。

太田

STEAMクラスは、今注目を集めている「STEAM教育」(※)からクラス名をとっていて、授業ではなくいわゆるプロジェクトスタイルですすめています。子どもたち数名でチームを作って、自分たちでテーマを決めて取り組み、半年後に成果を発表してもらうんです。ゲームを作ったり、AIに取り組んだり、テーマもさまざまです。自分たちで目標やスケジュールを決め、さらにチームの中で役割分担をしてすすめる必要があるので、自主性や協調性を培う場にもなっています。

※編集部注
教育理念のひとつで、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学・ものづくり)、Art(芸術・リベラルアーツ)、Mathematics(数学)の5つの単語の頭文字を組み合わせた造語。文系、理系などの枠にとらわれず、さまざまな分野を横断的に学んで、自ら課題を発見し解決する力を身につけることを目的としている。

太田

それからロボ部は、WRO(World Robot Olympiad)という国際的なロボットコンテストへの参加を目指すクラスです。うちのスクールでは毎年このコンテストに参加していています。昨年は国内1位になってドイツで開催された世界大会にも出場し、世界で4位になったんです。

川上

大会では、どのようなルールで競い合うんでしょうか。

太田

いろいろなカテゴリがあるのですが、僕たちのチームが出場したのは、決められたテーマに沿って設定されたミッションをクリアした数と、タイムで勝敗を決めるカテゴリです。今回は災害救助がテーマで、ビルにいる逃げ遅れた人を救出するなどのミッションが複数設けられていました。

世界大会にもなると、多くのチームがミッションを取りこぼさずにこなしていくので、上位はタイムの争いになってきますね。

川上

やはり、そうした大会に出ることで、子どもたちのやる気も違ってきますか?

太田

そうですね。子どもにもよりますが、それまでの成果を何らかの形で出すことができる場は必要だと思います。ピアノを習っている子が発表会で演奏したり、サッカーをしている子が試合に出たりするのと同じで、プログラミングでもコンテストに出ることが一つのやりがいにつながっていると思います。

WROという大きな大会以外にも、ロボ団の中の大会などたくさんのロボットコンテストがあるので、うちのスクールでは、小さいときから希望する場合は出場させるようにしています。

Cadenza代表川上城三郎

プログラミング必修化、必要なのは「面白さ」

川上

2020年から小学校でプログラミング教育が始まり、以降、中学校、高校でも必修となっています(高校は「情報Ⅰ」の科目)。今の学校現場でのプログラミング教育については、どのように感じていますか?

太田

始まってすぐに新型コロナが始まってしまったこともあり、指導内容や考え方が現場レベルではまだ確立されていないのではないでしょうか。学校によっても差があり、関心が高くプログラミングに理解がある先生がいる学校とそうではないところで、かなり温度差もあると聞いています。

川上

具体的に学校現場のプログラミング教育の様子を見たこともありますか?

太田

はい、ちょうどプログラミング教育が始まる直前ぐらいに、スクールに来ている子どもを通じて、その子が通っている小学校の先生から連絡をいただいたことがあるんです。体育の先生だったのですが、体育の授業にプログラミング教育を取り入れたいということで、ご相談をいただきました。

体育の授業で、お尻にひもで尻尾をつけて、その尻尾を取られたらタックルされたことになる子ども向けのライトなラグビーを行っていたのですが、先生と相談して、そのラグビーを題材に授業で使える簡単なプログラムを作ったんです。

川上

面白そうですね。どんな内容なんでしょうか?

太田

ラグビーのチームで、それぞれのメンバーがどんな動きをしたらどのような結果になるかをタブレットでシュミレーションできるものです。このラグビーは戦略があって、例えばABCという3人がいたら、Aは点をとるために突っ込む人、Bはフェイクで突っ込むふりをしてだます人、Cは相手を抑える人、などそれぞれの役割を決めるんです。作戦を立ててそれぞれの動きを設定して、「Play」を押したらばーっとタブレット上でメンバーが設定したとおりに動いて、結果がみられるものです。

市の教育委員会の方も来て見ていただいて、その後も学校でプログラミングをどうやって教えていくかを先生方とゼロベースで相談していました。それをきっかけに少しずつ学校でのプログラミング教育にも関わっていたのですが、コロナで一度全てストップしてしまい、今年からまた久しぶりに学校にお声掛けをいただき、プログラミングのサークル活動を行っている小学校や中学校でも講師を務めさせて頂いています。いている、という状況です。

川上

プログラミング教育を考える上で、大切なことはなんだとお考えでしょうか。

太田

まずはやっぱり、子どもたちが面白いと思えることですね。高校の教科書は既に入手し内容を見ているのですが、を見せてもらったことがあるのですが、例えばプログラミングで出てくるPythonの項目では、機構やデータ処理といった難しい内容言葉がいきなりたくさん出てくるんです。正直、初心者にはまったく面白くないのでは、と感じてしまいました。

ある程度知見のある子なら良いですが、プログラミングをやってみようという段階の生徒に対しては、まずは何か作って対決しようぜとか、これ動かしてみたいとか、そういった生徒自身が楽しめるきっかけがないとなかなか身に着けることは難しいと思います。

2025年に実施される4年度の大学入学共通テストでは情報が必須教科強化として入ってくるため、生徒や親御さんもその点で関心が高いと思います。しかし、プログラミングを勉強として始めると、仮に点が取れたとしてもすぐに忘れてしまい、価値がない詰め込み知識になってしまうのではないでしょうか。

川上

生涯を通じて役に立つプログラミング的思考やプログラミングスキルを身につけるには、どうしたらよいでしょうか。

太田

私のスクールでは、小さいお子さんを預かって英語を学ぶインターナショナルスクールも併設しているんですが、そこの子どもたちを見ていると、プログラミングも英語と同じように、楽しく自然と定着する環境にひたるのが大事なのかなと思います。無理に勉強する、覚える、というのではなく、遊んでいるうちに自然と英語が口から出てくるように、プログラミングについても抵抗なく触れる環境が大切なのではないかと考えています。

日本から世界へ、羽ばたく人材を輩出したい

川上

今後のスクールの展望、将来やってみたいことなどありましたら教えてください。

太田

今考えているのは、Pythonのエキスパートやロボ部のさらに「その先」です。具体的には、プログラミングのスキルを持ったここの卒業生を世界の企業とつなげて、日本から世界に羽ばたく人材をたくさん輩出したいと思っています。

今はまだ、スクールの一期生が高校生くらいなので、もう少ししたら世界で活躍する卒業生が出てくるかもしれません。そう思うと、将来が楽しみですね。

川上

素敵なお話をありがとうございます。最後に、太田さんにとって「インターネットとは」をひと言で言うと、何になりますか。

太田

ひと言、難しいですね。自分自身、大学時代にインターネットに初めて出会った時の衝撃は忘れられません。多くの子どもたちをこれから世界中につなげていきたい、そんな願いもこめて、僕にとってのインターネットとは「世界とつながるツール」ですね。

インタビュー年月日

2023.06.23

Interview
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